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カランと、ベルの音がする。
ドアを開けた先に待っていたのは、喫茶店の期待を良い意味で裏切らない内装。
お昼のピークは過ぎたようで、人もまばらにしか
祥子と椎名は、店の近くの喫茶店に来ていた。
お昼はここにしようかと思っていた店だ。
「おや、今日は女の子連れてるね」
カウンターの向こうで、いかにもマスターですと言わんばかりの男が立っていた。
「部下ですよ」
カウンターの席の1つに腰掛けると、祥子に手招きする。
大人しく隣に腰掛けると、女の子が隣に来た。
「お水です。それから此方がメニューです」
にこにこと笑うその姿は、どこか梨奈と被る。
可愛い女の子だ。
「ランチで。本田さんもそれで良いですか?」
「はい」
まぁ、喫茶店なのだから、他は軽食位しかないだろう。
と思い、同じものを頼む事にした。
「椎名さんが、女の子連れてくるなんて、珍しいですね」
「さっき、マスターにも言われましたよ」
2度目で恥ずかしくなったのか、椎名は、苦笑いで返した。
…あー、笑ってる。
普段見せない表情なので、視線が外せなくなった。
思えば、椎名さんの隣に座ることも、ランチすることも、仕事以外の顔を見るのも初めての様な気がする。
今日は、不思議な1日だ。
「どうしたんですか?」
視線に気付いて、声を掛けられる。そこで、初めてずっと見ていたのだと気付かされた。
「…何でもないです」
苦手だと思い込んで、距離を取っていたから気付かなかったのかも知れない。
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