第一話・―消え失せた依頼―

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 あるビルの前で、煮物の入った容器を片手に佇む青年がいた。  彼の名は、敦象(たいぞう)という。  少し長めの前髪を細い紐をヘアバンド代わりにして掻き上げて、たれ眼気味の瞳と、左耳にのみ月を模ったピアスをつけた結構な美青年だ。  しかし敦象は人間(ヒト)ではない、望月一夜(もちづきかずや)(あるじ)に持つ式神である。  敦象は今現在、変わった環境下にいた。  敦象の主は探偵をしている、それも普通の探偵ではない。  普通の人間には解決出来ないような要素を含んでいる事件――この世界では化け物と呼ぶらしいが――、が関与している事件を解決する探偵事務所である。  敦象はその探偵事務所の助手と称して、一夜や他の十一の式神と事件を解決する日々を送っている。  敦象が佇んでいるビルの中にも探偵事務所があり、そこも同じような経営方針をたたえている。
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