第一話・―消え失せた依頼―

6/19
前へ
/733ページ
次へ
「で、今日は一体何の用だ」  部屋の中に入るなり、少しでも時間が惜しいと言うように、簡潔に用件を促す。  そう言いながらも蛇眼は奥の部屋へと引っ込み、お茶を入れる準備をしているようだった。  敦象はそれを確認すると、椅子に座ってお茶がくるのを待った。 「用ですか。だからそれは先刻言ったではないですか。おすそ分けですよ、おすそ分け」  慣れた手付きで紅茶を入れ終え、部屋にカップを二つ持っていきながら敦象を見て返す。 「面倒事のおすそ分けなら間に合っている。“(とき)を守護する一族”の者が、一体俺に何の相談だ」  明らかに皮肉のこもった声だった。  “刻を守護する一族”というのは敦象の一族の事で、その呼び名の通り、地獄の底で“刻”を守護する役割を担っていた。  “刻”はそのまま時間の事を示しており、一族の者は“刻”を管理し、調整する事で繁栄の一途を辿っていたのだ。  それ故に“刻”を操る能力は、決して己のために使ってはいけないとされていた。
/733ページ

最初のコメントを投稿しよう!

654人が本棚に入れています
本棚に追加