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教室に戻るとほとんど誰もいなかった。 何人かに麗夜の行方を聞かれたが、帰ったと言っておく。 二人分の鞄を持ち教室を後にした。 戻る前に自販機でジュースを二本買って。 何が好きか分からなかったから、オレンジとアップルを。 大講堂に着く頃には手先が冷たくなっていた。 …中からピアノが聞こえる。 由良は静かに入って行った。 麗夜がピアノを弾きながら歌っている。 歌声はとても澄んでいて、知らずに聞き惚れてしまった。 曲名は分からない。 ただ麗夜の雰囲気と似ていると思った。 「あら、聞いていたの?」 いきなり演奏が終わる。 残念に思いながら、麗夜に近付いた。 「うん。綺麗だね、声。歌手とか目指してるの?」 「ううん。ただ歌うのが好きなの」 ピアノの上にジュースを二本並べる。 「どっちが良い?」 「リンゴ。ありがとう」 「じゃあお礼ってことでさっきの曲、最後まで聞かして」 由良はピアノに一番近い椅子に座った。 「間違ったらごめんなさいね」 きみと出会えた奇跡 大切にしたい 運命が導く先に きっと君がいる 私の行く先はきみだけ 言葉の意味をかみ締めながら歌っているようだった。 本当に綺麗で。 この空気が好きだった。
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