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「本性を隠してるか…、確かにそうかもね。ギャップは人の魅力だよ。簡単に本性が見えたらつまらない。そうでしょ?」
先生の唇がくっと上がり笑みを形作る。そして、その薄い唇は綺麗に煙草をくわえた。
夜空に上がる煙草の煙。ライトアップされた桜の花びらが白く光り、ヒラヒラと彼の肩に舞い降りた。
肩幅のある、大きくても締まった体つき。切れ長の目に鼻筋の通った高い鼻、薄い唇。風に揺れるさらさらとした黒髪。
――この人、こんなに綺麗な男だったっけ…。
思わずため息が零れた。私の中の好奇心が疼く。もっとあなたを知りたい。
「私、先生ともっと話がしたいです」
「えっ?」
先生はくわえていた煙草を口から離し、しげしげと私を見る。
「俺、神崎さんに誘惑されてるのかな」
「なっ、ち、違います。誘惑だなんて」
これ、誰が聞いても誘惑してるとしか思えないよね。
一瞬にして、自分の放った言葉の軽率さに気づき顔が熱くなる。
さっきから私、どうしちゃったの?【穴があったら入りたい】まさに今がそれだ。
咄嗟に先生から視線を外し、流し込むようにビールを一気に飲み干した。
「神崎さん、この宴会が終わったら二人で消えちゃおうか」
「えっ?」
「俺も神崎さんともっと話がしたい。二人で行こうか。美味しい酒を飲みに」
彼は辺りに視線を配りながら、そっと私に耳打ちした。
私は膝の上に乗せたルイ・ヴィトンのショルダーバッグの端を握り、躊躇いながらもただ小さく頷いた。
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