二人の関係

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 宴会を終えた私たちは、二次会の誘いに捕まらぬよう、解散をする者たちに紛れて公園を後にした。  二人を乗せたタクシーは、国道155号線から瀬戸街道に繋がる栄町の交差点を右折しようと、ウインカーを点滅させる。 「どこに飲みに行くの?」 私の右側に座る先生の横顔に話しかけた。 「そうだな。藤ヶ丘は二次会組が向かってそうだし、今池や新栄は大学時代のツレがフラフラ飲み歩いてそうだし…。とりあえず東山通に入って星ヶ丘辺りで考えるか」  座席に大きくもたれかかり、視線を前方に向けたまま先生が答えた。 「先生って大学どこだっけ?」 「名古屋M大学病院医学部」 「名東区に中川区に瑞穂区かあ…名古屋市内の端から端まで移動してるんだね」  頭の中で市内の地図を浮かべながら、ふんふんと頷く。 「何だよ。質問攻めだな」 「あ、ごめんなさい。結城先生って謎に包まれてるからつい…」  否定できない胸の高鳴り。緊張と高揚が入り混じる。ふと窓の外に視線を伸ばすと、ディーラーのショールームから微かなオレンジ色の光がこぼれている。私は気持ちを落ち着かせようと密かに深呼吸を一回。 「別に構わないけど。神崎さんは?出身どこ?」  そんな私に、先生は微笑みを向けながら問いを返した。 「生まれは岡崎市。卒業した看護学校は港区のT病院付属看護専門学校だよ」 「港区かあ。昔はよく名古屋港あたりを走ってたな。金城埠頭とか」 「車で?」 「バイクで。学生の頃の話。卒業するときにそれ売って今の愛車の資金にしちゃった」 「今の愛車の、黒のボルボだっけ?」 「そう。なんで知ってんの?」  先生は私に視線を移し首を傾げた。 「病院の駐車場から出ていくの見かけたことあるから」  偶然見かけたのは本当。でも実は、病院の駐車場から出ていくのを寮のベランダから目で追った事が何度かある。   先生はどの辺りに住んでいるんだろう…なんて考えながら。先生が病棟に来なくなって淋しさを感じていた時期の話だ。
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