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「神崎さんはどんな車に乗ってるの?」
「赤のトッポ」
「トッポねえ…。岡崎出身だから三菱とか?」
「父親が三菱自動車の社員だから、三菱の車だと社員割利くの」
「ああ、なるほどね」
先生は頷きながら軽く微笑んだ。
守山方面に向かうタクシーは、瀬戸街道から国道302号線に入っていた。第二環状道と合流するこの国道は、帰宅ラッシュを過ぎた22時を回ったこの時間帯でも車の通りが多い。
私たちを追い越した車のバックライトをフロントガラス越しにぼんやりと眺める。ラジオからは、聞き覚えのないバラード曲が流れていた。
「ところで、目的地は決まった?あっ、もうすぐ先生の家の近くだよね?」
「そう、駅の交差点を右に曲がってったとこ。俺の部屋で飲んでもいいけど」
「えっ!先生の部屋で?」
それを、全く期待していなかったと言えば嘘になる。でも、もし、そんなことがあったとしても、飲みに行った後の流れになろうかと思っていた。心の準備が出来ていなかった私は、先生を凝視し目を丸くする。
「俺の部屋だとマズイ?酒はある程度の種類あるけど」
「別にマズイ訳じゃ無いんだけど…」
「なら決まり。すみません、その信号右に曲がって坂を上って下さい」
彼氏でもない男の家に行くのは珍しい事ではない。酔った勢いで男友達の家に泊まり、エッチをしてしまった事も一度、二度、いや三度くらいはあった気がする。
勿論、誰でもいい訳ではない。好きという感情がなくても、『どんなセックスをするのだろう』と興味が湧く相手となら、肌を重ねることに抵抗はない。
つまり、私はセックスという行為自体に貞操観念がない。愛情があれば違う感覚も得られるが、それが必要不可欠でもない。
しかし、目の前にいる男は同じ職場のドクター。ナンパされてのノリでは非常にマズイのだ。
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