エピローグ

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 高校三年生の夏休み、私は看護学校入学を目標に必死に受験勉強をしていた。夏期講習で毎日学校に通い、夜は進学塾で遅くまで授業を受けた。 当然のことながら、デートをする時間も精神的な余裕も無かった。  彼に会えない淋しさはあったが、「それは彼も同じ。受験が終わればまた以前のように会える」と、自分に言い聞かせ耐えた。  しばらく会えない時間が続いたとしても、お互いの気持ちは変わらない。二人の愛は変わらない。そう信じていた。  しかし、彼にはその淋しさを乗り越える事は出来なかった。彼は、自分が通う塾で顔を合わせる娘に気移りした。それを打ち明けられたのは、冷たい風に包まれた秋の夜。  相手は私と面識のある同級生だった。心移りをした理由は、『なかなか会えなくなってから俺に冷たくなって喧嘩も増えて…、気持ちが冷めたのは綾子の方からだろ?受験が終わって会えるようになっても、気持ちが一度冷めたらもとに戻れない』と――。  浮気心が出たのは私が原因だと、謝罪の言葉もなく居直られた。最悪の結末だ。  後から噂で聞いた話だが、『綾子とはもう終わっているから』と、彼の方から相手に言い寄り、夏休みの最中に交際を始めていたらしい。  恋愛を一方的に強制終了された私は、その酷薄な噂を聞いて奈落の底に突き落とされた。一度愛した女にこんな酷い仕打ちができるのかと、心底、彼を憎んだ。    横取りされたと、罪のない新しい彼女まで憎んだ。デパートの下りエスカレーターで、手を繋ぎ微笑み合う二人を見つけた時は、後ろから突き落としてやろうかとも思った。  子供が新しいオモチャを欲しがるように、新しい女の身体に目移りしたんだ。男なんて下半身が疼けば我慢なんて出来ない。愛とはなんて軽薄なモノなのか…。
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