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「綾子さぁ、なんでそんなに私達を会わせたがるの?」
「え?だってさ~、水島先生も唯に会いたいかと思って。娘の名前が同じ『凛』なんて、意味深で面白いじゃん。先生、娘の成長を見ながら唯を思い出してたりして~」
「綾子…不謹慎だよ。それは禁句」
調子よく喋る私を冷ややかに見て、唯は呆れ顔でため息を溢した。
「私、ずっと訊けなかったんだけど。綾子はどうしてあの時、私を水島先生のもとに行かせようとしたの?自分と同じ過ちを犯した私なのに」
そう言葉を連ね、ボックスから出した烏龍茶を手渡した。私は受け取ったペットボトルをテーブルに置き、冷えた水滴をタオルで拭く。
「唯と水島先生なら、違う未来を見せてくれるかも知れないって思ったから…かな?」
「違う未来?」
「そう…私が欲しくても手に入らなかった未来。私は、唯と自分を重ね合わせて見てたんだと思う」
「……」
「結局、唯に自分の夢を押し付けたのかもね」
大きなため息の後、親友に苦し紛れの笑みを見せた。
「私、綾子には感謝してるよ」
目を細めて唯が柔らかな笑みを向ける。私は瞬きをし、黙って唯の笑みを見つめる。
「だって、私が前に進む切っ掛けを作ってくれたの綾子だもん。人間って、究極の状態に追い込まれないと答えが見えて来ない場合あるじゃない?」
「うん、それは分かる」
「だから、あれで良かったんだよ。あの時の私がいて、今の私がいるんだから。綾子だってそう思ってるんでしょ?」
はしゃぎながら、川に向かって小石を投げる凛ちゃん。唯は愛しそうに愛娘の後ろ姿を見つめている。
「うん…そう思う」
楽しそうに石拾いをする、翔太と千咲の姿を眺め静かに頷いた。
「和馬を、梨花さんから奪わなくて良かった」千咲を見つめ、口を引き結んだ。
「…うん」
「今の自分からしたら凄く怖いよ……あの頃の私と言う女の存在が」
大切な者を奪う、今の生活を壊す存在が。
「うん、私も怖い。あの頃の自分の存在が…。さゆりさんの心の傷は、きっと今でも消えてない。私、自分が犯したこの罪を今わの際まで忘れちゃいけないんだ…」
唯は目を伏せ口をつぐんだ。彼女の話によると、水島先生から4年前に一度だけメールが来たらしい。メールには先生の娘、凛ちゃんが、オレンジ色のワンピースに麦わら帽子を被って、無邪気に笑う写真が添付されていた。
「なんか、罪悪感あるよね…奥さん、私の娘と自分の娘が同じ名前って知ったら」
唯はそう呟き、複雑な表情で苦笑いを溢したのを覚えている。
「その恐怖感は、本当に守るべき者ができないと、分からないんでしょうね」
私と唯の沈黙を破った落ち着いた声色。目を丸くして同時に振り返る。
「みわさ~ん、ビックリするじゃんかぁ~」私は大きく息を吐き、胸を撫で下ろす。
「いつから後ろにいたんですか?」唯がみわさんを見上げる。
「え?『違う未来を見たかった』…あたりかな?遅くなってごめんね。はい、ビールの追加と、忘れ物のソース買って来たよ」
彼女は微笑み、買い物袋をテーブルに置いた。気品に満ちたオーラを放つみわさん。40代半ばで初めての出産をした彼女は、母になっても相変わらず美しい。
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