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「結構、長く話を聞いてたんですね」
みわさんを見て薄笑いを浮かべた。
「だって、二人の話が懐かしくって。私はこの二人の恋愛を見守って来たのね…な~んて、お姉さん気取りで思い出に浸ってたのよ」
ガサガサとビニールの音を立て、みわさんが買い物袋からビールとソースを取り出す。
「みわさんと慎ちゃんには、本当にお世話になりっぱなしだもんな…ね、唯」
「ん?私もあの人も若者の話を聞いて、自分の過去を思い出したり、経験談を伝える事で楽しんでるからいいのよ。私達にとっては、それが若さを保つ秘訣なの」
そう言うみわさんは人差し指を立て、妖艶さを放ちながら綺麗に笑った。
「慎ちゃん、乃愛ちゃんが産まれて落ち着きましたよね~」
「落ち着く?女性関係のこと?」
「うん。ほら、慎ちゃんって浮気性じゃない」
火起こしをする直人の横で、ビール片手に大笑いする慎ちゃんに視線を向けた。
「さぁ~、どうかな。浮気癖は性質だから、男として機能しなくなるまで続けるんじゃない?」
「性質だからって、みわさんそれで良いの?」
私は視線を慎ちゃんから外し、落ち着き払うお姉様をまじまじと見つめる。
「だって、その性質も受け入れてなきゃ一緒になんていられない。添い遂げる覚悟ってやつね。子供がいたら尚更だわ」
「ちょっと…みわさんの話、相変わらず大人過ぎて強烈なんですけど」
唯は目をパチパチと大きく瞬きさせる。
「あの人は…女に夢をみさせない人だから大丈夫。自分も夢は見ない。帰ってくる場所は、必ず私と乃愛の所よ」
「女に夢は見させない?」
「そう、不誠実の中の誠実…って分かる?」
「……」――私と唯は黙って顔を見合わせる。
「不倫の関係の場合、言葉で女の心を束縛することほど残酷なものはない。『愛してる』『離したくない』例え本当にそう思っていたとしても、男は決して口に出してはいけないのよ。それが、不倫をする男の責任」
「女に夢を見させないのが、男の責任」
胸がドクンと大きな音を立てる。目線をペットボトルに落とし、唇をきつく閉じた。
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