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「でも、女は夢を見たい…。例え叶わなくても、愛されてると信じたい。本心じゃ無かったとしても、言葉が欲しいのが女でしょ?」
唯はみわさんの顔を見つめ、訥々と言葉を並べた。
「そうね、それが女ね。何が本当の思いやりなのか…何が本当の優しさなのか…考えるほど分からなくなるわよね」
みわさんは白い雲の浮かぶ空を見上げ、眩しそうに目を細めた。
「それは…長い月日の流れによって見えてくるものなのかも知れない」
唯は草木の香りを優しく包んだ風を吸い込みながら、そっと目を閉じる。
「人間は愛されるために産まれてくるんだもん。愛を求めてしまうのは仕方のないこと。それが…年を重ねるにつれて形を変えていくだけ」
私はゆっくりと立ち上がり、手を振る千咲に心からの微笑みを送る。
もし、もっと早く和馬と出会えていれば…
もし、和馬が私を選んでくれていたら…
どんなに「もし」を繰り返しても、それは空想の世界でしかない。自分の中で築きあげた、現実よりも遥かに美しい空想の世界。
なぜ、人は苦しい恋愛ほど美しく見えてしまうのだろう。8年という時が経った今も、思い出すのはあなたの笑顔。今も尚、私の中で美しい『記憶』として刻まれている―――。
「ママ、あっちに小さなお魚いたよ、見に行こうよ!」
千咲が、満面の笑みで私の手を引っ張る。
「ちさ、ママの手を引っ張っちゃ駄目だ。ママが転んだら大変なんだぞ」
翔太が慌てて千咲の手を繋いだ。
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