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突然思いがけない言葉を耳にし、驚きを露わにして先生を見る。
「先生…、急にどうしたの?酔ってるの?」
「いや…酔ってない。こう言う場で酔えない質なんだ。ごめん、突然変な事言って。今日へこむ事あって…ここには外科医俺だけだから緊張感抜けたのかな。ちょっと愚痴りたくなったのかも」
「先生…」
「いや、気にしなくていいから。聞き流してくれ」
先生は苦笑いを浮かべ、誤魔化すかのように私のグラスににビールを注いだ。
でも、そんなこと言われたら余計に気になるじゃん。先生の横顔を見つめ、返す言葉が浮かばないことにもどかしさを感じる。
「あの、私もです。こういう宴会だと酔えないんですよね。気の合う友人となら遠慮なく酔えるんですけど。実は私、飲んじゃうと記憶なくなることもあるんで、ちゃんと送り届けてくれる人が側にいないと安心して飲めないんです」
「えっ?本当に?仕事してる真面目そうな姿からして、そんな酒乱なタイプに見えないけど…。まさか、以前お酒で失敗した経験があるとか?」
先生はしげしげと私を見つめる。
「あります。目が覚めたら隣に記憶に薄い男が寝てて、ウゲ!やっちゃった!みたいな。もちろん最近はありませんけど…まあ、若気の至りと言うやつです」
体をくねらせてわざと らしくエヘッと可愛らしく笑って見せる。
「若気の至りって、まだ十分若いでしょ。危なっかしいな。神崎さんのイメージが劇的に変化したぞ」
先生は、今まで見せたことのないような大きな口を開けて笑った。
「そんなに大爆笑しないでくださいよ。大体、劇的変化って、どんなイメージだったんですか?」
「おいおい、自らカミングアウトしといてふくれっ面するなって。そうだな、神崎さんは真面目で少しクールな感じがしてたな。いつも背筋がピンと伸びてて、姿勢の良さがすらっとしたスタイルの良さを引き立ててるよね。後ろから眺める腰のラインがいい!」
「ちょっと!病棟でなに眺めてるんですか!」
「男は女の後ろ姿が好きなものなんだ。仕方ない」
「何が仕方ないんですか…ったく。クールなイメージだったのは先生の方ですよ。劇的変化はこっちのセリフです。こんなセクハラドクターだったなんて、騙されてました」
先生は悪戯っ気な笑みを浮かべて私を見ている。
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