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エピローグ
「愛してる」
――初めてその言葉の囁きに触れたのは16歳の夏だった。
初めての彼氏…、初めてのキス…、そして初めての…セックス。
窓の外から聞こえる煩い程の蝉の鳴き声が、下半身の拍動する痛みを強くさせるかの様に耳に響いた。ステレオからは、当時、私が好きだったアメリカの女性シンガーが歌う切ないラブソングが流れる。
「綾子…愛してる。ずっと、ずっと一緒にいような。大切にするから…」彼は、汗で濡れた熱い体で私を抱きしめた。
愛してる?…身体の奥から込み上げる喜び。この感情が愛してる?
「うん…私も愛してる」初めて口にするその言葉。私は照れ笑いを隠すために彼の胸に顔を埋めた。
「綾子、愛してる」
何度も繰り返される甘美な囁き。幸福感に満たされながら、彼の感触が残る下腹部をゆっくりと撫でた。
高校二年生の夏、片想いの末に実った恋だった。好きで、好きで、どうしようもないくらいに好きで…
〈これがきっと愛なんだ…〉
「私も愛してる。ずっと、あなたと一緒にいたい」
それが、初めて私が【愛】に触れた瞬間だった。私に愛する喜び、愛される喜びを教えてくれた初めての彼。
そして同時に、裏切りと絶望と憎しみ、愛した者を失う苦しみを教えてくれたのも彼だった。
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