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その年のクリスマスイヴは雪がちらついていた。
世間ではホワイトクリスマスとか言って喜んでいたが、俺には無関係だ。
仕事帰りにコンビニに寄るとクリスマス商品のケーキが山積みされている。
クリスマスの2週間前に彼女と別れた俺には、ケーキが何故かムカつく対象になった。
俺は店員に言ってケーキを購入した。
コンビニを出てどこかでケーキを投げ付け、踏み付けるつもりでいた。
帰宅途中にある公園が第一候補だ。
真冬のこんな時間に人気は無いはずである。
公園に入ると案の定人影が無い。
奥まった見えにくい場所に決めて移動すると、そこには一人の少女がいた。
(こんな時間に?)
俺は思わず声を掛けていた。
「こんな時間にどうしたの?」
少女は泣きながら答えた。
「クリスマスなんて嫌い。」
「嫌いなんだ。どうして?」
「お父さんもお母さんも働いてるから、お兄ちゃんと二人だから、ケーキも無いの。」
俺は自分の手にしているケーキの箱を差し出した。
「これあげるよ。」
泣いていた少女は、キョトンとしながら怖ず怖ずと手を出して受け取った。
「ありがとう。」
「早く帰ってお兄ちゃんと食べなね。」少女は頷くとケーキの箱を大事に抱えながら走っていった。
(踏み付けられなかっただけケーキも幸せか)
俺は何故か苦笑していた。
その場を立ち去り公園を抜けて家に着いた。
妹が玄関でクラッカーを鳴らし『メリークリスマス』と叫んでいる。
「何だいきなり?」
「彼女と別れたんだから私が付き合ってあげるよ。」
「阿呆か…」
「アニキ、覚えてるかな?昔、クリスマスの日に私が泣いて家を飛び出したのを。」
「あぁ『サンタクロースにケーキ貰った』ってケーキ持って来たよな。」
「うん。何故か今年のクリスマスに、ふっと思い出しちゃてさ。」
さっきの少女が、妹の幼い頃にそっくりなのに今気が付いた。
+++終わり+++
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