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頬を伝い流れる泪を拭う動作を忘れた指先は、無機質でヒンヤリと冷たい床に投げ出されていた。
――…ああ、俺は…。変わらず、一緒に居たい。
二人で笑って、春夏秋冬、肌で感じ、眼で楽しみたい。
笑顔に満ち溢れる世界を、共に歩みたいのに…
俺は少しずつ、変わってしまう。
態度も口調も見た目も全て、夜音に対しても他者に対しても、変わってしまう。
『明日は来ないかも』
あっさり無機質な声が出て、夜音が辛そうに眉を潜めて、そしてまた、俺は言うんだ。
『遊びに出掛ける約束あるから』
次の瞬間、夜音は少し俯き、小さく身体を震わせ…掠れた声を絞り出すんだ。
『…そぅ、なん…だ。』
って。暫しの沈黙の後、夜音はゆっくり顔を上げて、俺に言うんだ。
『‥楽しんで…きてね』
って――。
泣きそうな顔を必死に笑顔で隠すんだ。俺を気遣って、一生懸命…笑うんだ。
『…気をつけて、ね?』
最後に、アイツはそう言う。必ず、夜音は最後に言う。
今にも消えそうなその笑みは、俺を気遣って。だから俺は、夜音に言うんだ……。
『お前もな』
その刹那。夜音の表情は変わる。驚きに…そして、笑顔に――。
『ありがとう』
…綺麗に笑う。
誰にも立ち入れない位綺麗に微笑むんだ――。
「――…、……」
これでいいのか?って悩む度に、胸が締め付けられる思いをした。
そして、頬に冷たく流れる泪に……切なくなる――。
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