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俺達は、長く白い廊下を無言のまま歩き続けた…。
母さんは涙ぐみ、父さんは、そんな母さんの肩を抱いたまま歩いた。
「…星那。もう泣き止まないと…。君がいつまでも泣いていると、目が赤く腫れて、夜音が心配してしまうよ?」
夜音が居る病室を目の先に、泣き続ける母さんに父さんは優しく宥めた。
「…そ、そうよね…。あの子が心配してしまうわね…。でも…ッ」
瞳に涙を溜め、母さんは弱弱しく泣いた…。
悲しみに震える肩を、父さんは優しく包み込むかの様に抱いた。
「…今一番辛いのはあの子だ…。私達で安心させてあげよう…」
「…えぇ。私…、飲み物買って来ます。あなたは星音と一緒に先に行ってて下さい…」
涙をハンカチで拭うと、母さんはいつもの笑顔を浮かべるが、無理しているのは一目瞭然。必死に笑おうとしているのが一目で分かる程、母さんの笑顔は不自然だった。母さんの無理してる笑顔を辛そうに見つめる父さんは二言返事で返した。
足早に自販機に向かう母さんの震える背中を見つめていると、父さんは小さく吐息した。そして、俺を振り返り、また母さんの居なくなった廊下を見つめていた。俺は早く夜音の所に行きたくて、少なからず苛立っていた。俺はとうとう、痺れを切らし、いつまでも動こうとしない父さんに向かって冷たく問う。
「…行かないの?」
「…っ…!?…今、行くよ」
急に声を掛けたから、父さんは驚いてしまったらしく、肩をびくつかせた。しかし、直ぐにあの優しい笑みを浮かべ、俺の先を歩き出した。
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