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「!?はぃっ!?えっ…、ちょっ……心の準備が…!」
慌てる父さんに一言。
「知らない」
父「えっ!?えぇぇっ?!星ちゃんッ!? パパはまだ心の準備が~ッ!!」
一人叫ぶ父さんを無視して、僕はドアノブを回した。
*****
夜音の病室は、病院特有の純白で統一され、今はまだ、必要最低限の物しか置かれていなかった。
僕は静かに入り、
「――夜音?」
呼び掛けた。
夜音の部屋は個室で、窓の近くにベッドが置いてあり、TVやタンス、ソファーにテーブルが備え付けられていた。そして俺は、半分だけカーテンの引かれたベッドに近付き、もう一度、声を掛けた。
「……夜音?」
「…星…」
呼び掛けにも応答しない夜音に、俺は不安になり、手を伸ばした。
そんな俺を、父さん黙って見つめていた。
「夜音?寝てるの?」
やっぱり俺の呼び掛けには返事は返ってこなく、痺れを切らした俺は、カーテンを掴むと、乱暴に開け放った。
「――夜音?」
そこには、ベッドに腰掛けたまま、窓の外を眺める夜音が居た――。
「………」
「‥夜音。起きてたんだ…」
「…………」
「‥夜音、聞いてる?」
「………」
「………」
多少の苛立ちで、俺は無言になった。
「‥‥」
「……何見てんだよ…っ?」
声が震え、そう聞き出すも、アイツは何処か遠くを見つめていた。
俺達が来た事にも気付かないくらいに…。
遠く‥、ずっと遠くを見つめていた‥。
「夜音」
「……」
「‥夜音ッ!!」
「――ッ?!」
――嫌だった。
このまま、アイツが‥僕の行けない何処か遠くに行ってしまいそうで…。
行かせたくなくて、独りになりたくなくて。
その瞳に、俺を映して欲しくて、怒声混じりに名を呼んだ――。
夜音が俺の方を慌てて振り返る。
俺は、荒々しくなりそうな勢いを、必死に抑え込み、驚きで瞳を見開く夜音に、こんな自分を知って欲しくない一心で、普段と変わらない様な口調で話し掛けた。
「‥何処…、見てたの?」
決して、『何を見てたの?』とは2度と訊かない――。
夜音が何処かに行ってしまう気がしたから‥。
「‥星‥、音…?‥えっ…?いつ、来たの‥?」
「…さっき。で?何処を見てたの?」
驚いてる夜音に、俺は応えてあげた。
大好きな夜音の為だしね。ちゃんと、さっきの質問もしてあげた。
今度は優しく、理性を抑えた声色で――……。
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