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すると夜音は、途端にふわりと微笑んだ――…。
「‥空を、…見てたの」
そう言いながら、夜音はまた、窓の外の景色を眺めていた。
「‥空?…いつもと同じだろ?…そんなの見ても楽しくもなんともないだろ」
俺は、当たり前の事を言うと、夜音は苦笑した。
「‥そんな事‥ないよ?」
寂しそうな、柔らかそうな…。何ともいえないそんな視線を、自分の手元に向け夜音に、眉を寄せた。
「‥あのね、空はね、色々な色を見せてくれるんだよ。」
「…色?」
「うん!」
夜音はにっこり笑うと、空に視線を移した。
「…雨の日は寂しげな灰色で、晴れの日は、淡い青と……。んーと…、あとはぁ…」
指を口元に当て、色の説明をしてくれる夜音は、どこか楽しそうだった。
「‥あぁ、でも‥」
「?」
「…空の色はね、その時の心で変わるんだよ」
『心で変わる』
そんな空があるなら、今お前が見てる空は何色だよ――…。
「‥ふぅん。じゃあ今は…」
ふと、空を見上げて色を見付けようとした俺に、夜音は小さく笑った。
「うん。何色?」
「‥青。いつもと一緒」
素っ気なく言うと、夜音も一緒に空を見上げた。
「――淡い青だね‥」
『淡い青』
夜音が言う言葉の一つ一つが、印象的で、謎めいていて…、俺の心に深く刻み込まれた。
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