【微笑み】

8/10
前へ
/14ページ
次へ
「………」 じっと夜音を見つめていると、その視線に気付いた夜音は小首を傾げた。 「‥ん?なに?」 さらっと滑り落ちた夜音の髪は、日の光に当てられ、キラキラ光輝いて見えた。 「――‥いつもと同じ青に‥、よく飽きもせずに見れるなぁって思っただけ‥」 視線を反らして、俺は少し皮肉気味にいい放った。 「‥‥ぅん。でも……」 途端に肩を落とし、今にも泣き出してしまいそうな声色で言葉を濁らせた――。 「……なんだよ…。何が言いたいわけ?」 夜音に視線を移し、冷たく問い掛けると、あからさまに肩が震えた。 「……何でもない…」 そんな訳ない筈なのに、夜音は何も言おうとしない…――それが余計に、俺を苛立たせた。 「‥ッ‥言えよ。なんだよ‥ッ‥」 ――何でこんなに苛立つんだ…。別に夜音とは喧嘩になるような事は言ってないし…、何なんだよっ!! 「――…ッ…」 気を紛らわせようと、視線を部屋に飾られた写真に向けた。 すると、夜音が。 「…懐かしいでしょ?それ…僕と星が海に行った時のだよ…。」 「……なんで今更こんなの飾ってんだよ…」 「…ん、と…。何て言うのかな‥?その写真を見てるとさ、なんか胸がポカポカするんだよね‥」 寂しげに…、言ってしまえば…儚げに笑う夜音を見ていると、胸が締め付けられる思いがした。 「…最近の写真でもいいだろ…。」 呆れながらそう言うと、夜音はまた苦笑した――。 「…そうだね…。でも‥‥」 と、ここでまた言葉を濁らせ、俯いた。 「‥‥最近は‥‥」 『戸惑い』を感じらせる夜音の途切れ途切れの言葉に、俺は夜音の事を熟知しているようで、実は全然知らないということを実感させられ、悔しさで下唇を噛んだ。 「……最近の写真…、はね…、まだ‥駄目なんだ‥」 そう一人言の様に、ただ小さな声で言う夜音に…、怒りで肩が震えた。 「…何が?さっきからなんなんだよッ…?お前はさっきから何が言いたいんだよっ?!」 完璧に八つ当たり――。 「…せ‥、い…?」 驚きに目を見開く夜音にはお構いなしに、俺は声を荒げた。 「空ばかり見て、こんな何年も前の写真にこだわってッ!!!何が言いたいんだッ?!言え!言えよッ!!」 「…?!星音‥?なに…?どうしたの?!」 『どうしたの?』 そんな事、俺だって訊きたい――…。 なんでこんなに苛つくんだよ……。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加