足元には注意しよう

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勅使河原祐樹は高校生である。 二時間ほど噛みに噛んだガムぐらい味も素っ気もない高校生である。 さらに女っ気も無く、名字の珍しさだけが目立つ文字通り名前負けしている一介の高校生である。 そんな彼には彼女という者は当然居る訳がなく、クリスマスは例年家族と過ごしていた。 ならば、なぜこんな寒空の下を歩いているのか? 答えは簡単。 両親が二人で出掛けてしまったのだ。 「ホントに突然なんだからなぁ」 祐樹が学校から帰宅し、いつも通り「ただいまー」と言って居間に入った時、クリスマスはいつも早めに帰ってくる父も、常に家に居る母の姿も無く、 母さんとラブラブしてきます by 父 という置き手紙と、その横に一万円札が一枚置いてあるだけだった。 つまり祐樹は、俺たちは二人でにゃんにゃんしてくるからお前はその一万円で好きに過ごしやがれ!と両親にほっぽり出されてしまったのだ。 クリスマスなのに。 「いい歳こいて何やってんだか……」 そんな訳で、フライドチキンでも買ってこようと一人寂しく夜の町へ繰り出したのだ。 クリスマスなのに。 「うぅっ!寒っ!」 冷たい北風が祐樹を撫でる。 「まぁいいか。たまにはクリスマスを悠悠自適に過ごすのもいいかも知れな痛っ!!」 十字路を曲がったところで、派手にひっくり返った。 「いってぇな!何だよ!」 尻をさすりながら一人ぼやく。 足元は氷が張ってツルッツルになっていた。 「……ついてねー」 どうやら自然ですらも、彼には味方してくれないようだ。
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