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身体の事があるせいか、匠はいつも人が滅多に訪れないこの屋上に脚を運んでいた。
「-…見つかっちゃった」
「…当たり前だ。此処は俺とお前しか来ないからな」
匠はとぼけたように云う。俺は匠のそんな所が愛しくて堪らなかった。
「…匠、此処は身体に負担がかかる…教室に戻るぞ」
本来ならば、匠は教室にいなければならない状態なのだ。なのに外に出る、ましてや屋上という気温の低い場所などは命の危険に曝される。
医師からはもって10分程度が限界だと云っていたが、当の匠本人はそれをやんわり受け流していた。
「ヤダ。僕は戻らないよ」
「…匠」
「だって、戻っても何もする事がないんだもん。僕はこんな身体だから、みんなの足手まといにしかならないし…」
匠には“友人”と呼べる者がいない。クラスにいる者誰一人として匠には近付かないのだ。
それは、ただ嫌いだからという事ではなく、匠の身体を傷付けないようにという気持ちからできるもので、決して避けているものじゃないのだが、匠にすれば避けているように見えるので、教室に行きにくいという。
「僕は此処の方が落ち着くから…」
「そういう問題じゃないだろう。…少しは自分の身体の事も心配しろ。俺が落ち着かないんだよ…」
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