8月1日(金)【奈緒】

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    さっきまで、ここで奈緒と遊んでいた翠や紺の姿が見えなくなっている。   奈緒 「あー…。 二人ともどこか行っちゃった」   雅樹 「は?」   奈緒 「紺は『避難しなきゃ!』とか言ってどこかに行っちゃうし…」   怜……だよなぁ。   紺が逃げるほどの相手とは…そうとう嫌われてるぞ。   いや、紺のことだ。 怜で、遊んでいるだけかもしれない。   奈緒 「翠は飲み物買ってくるって」   雅樹 「飲み物ならあるじゃねーか」   現に今、俺はギンギンに冷えた麦茶を飲んでいる。   奈緒 「それがね? 『麦茶ぁ!? お茶といったら、 緑茶に決まってるでしょ!?』 って……」   雅樹 「なんだそりゃあ」   なんでそういう微妙なところだけ、日本人臭いんだろうか。   雅樹 「つーか翠のマネうまいな」   奈緒 「え?」   姉妹である紺のマネは微妙であったが、翠のマネはそれとなく似ていた。   雅樹 「似てたぞ」   奈緒 「そ、そうかな? 『なんであんたはそうやって、 いつもいつもエロいことばかり考えてわけぇえ!? ほんと信じられない!!』」   雅樹 「………ズズー…」   俺…俺っていったい…。   「ぐすっ…マーマー!!」   雅樹 「ん?」 奈緒 「あ…」   俺たちの目の前を五、六歳くらいの小さな女の子が大泣きしながら通り過ぎる。   この広さだ。 きっと母親とはぐれてしまったのだろう。   要するに迷子だ。   このまま、見てみぬふりをするわけにも、いかないよなぁ…。 雅樹 「よっと…」   奈緒 「………」   雅樹 「おう…」 俺が立ち上がったのと同時に、奈緒も立ち上がった。   奈緒 「うん」   どうやら考えていることは同じらしい。   雅樹 「おーい。どうした? ママとはぐれちまったか?」   とりあえず俺は、女の子の前に立ち、頭に手を置き優しく笑いかけてみる。   女の子 「………」   しばらく見つめ合って、そして   女の子 「うあぁぁぁああん!!」   泣き出した。   雅樹 「なんでぇっ!!?」   俺のスマイルが通じない!?   奈緒 「はいはいはいはい。 どいてどいて」   雅樹 「あぁっ」   奈緒 「どうしたのかな? お母さんとはぐれちゃった?」   奈緒は俺をズイズイとどかし、女の子と顔が同じ高さになるように腰を低くして、いつもと変わらぬ感じで話しかける。   女の子 「う゛っ…ぐすっ……んっ…」   奈緒 「そっか…でも大丈夫っ。 お姉さんと一緒にお母さんを探そっか」    
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