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【トナカイ召喚】
礼拝堂の扉をゆっくりと開ける――。
そこには、同じ境遇の孤児たちと母親代わり兼院長の眞利亜が立っていた。
「おはよう、ミサちゃん」
ニッコリと微笑みを浮かべた眞利亜が魅沙に声を掛けた。
「…おはようございます、シスター・眞利亜」
他の孤児達は決して魅沙に近付いたりしない。
いや、魅沙自身がそれを望んでいないのである。
パン、パン!
眞利亜が手を叩いた。
「さあ、これで全員揃ったわ。
――じゃあ、ミサちゃん。
演奏お願いね」
「――はい、シスター」
魅沙は讚汰と共にピアノを習っていた。
孤児院の中で『習い事』を許可されるのは、ほんの一握りの者だけだ。
礼拝堂の最奥に位置する、小さな教会にしては不似合いの立派なパイプオルガン。
そのオルガンを前に、魅沙はいつもの『儀式』を施す。
パイプオルガンのずっとずっと上に位置する、大きな大きな十字架。
そこに磔にされている、偉大な神・イエス――
魅沙は毎朝、神にこの曲を捧げる!
ポロロロ……
軽快なリズムとともに流れる、美しい旋律。
魅沙の指が美しく躍り、そこに生まれる『音』の洪水――
その『音』に導かれ、ソプラノが映える…
「いつ聴いても……美しいわね、ミサちゃんの演奏は――」
うっとりする、眞利亜の声が耳に入る。
(眞利亜…ごめんなさい。私は、賛美歌を弾いているのではないの……)
演奏しながら、魅沙は磔にされた『神』を睨み付ける―――
(これは、私から全てを奪った、あなたに対する『鎮魂歌-レクイエム-』……
私は、あなたを許さない!)
―――魅沙の心は荒んでいた。
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