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ドレスを着て、 控え室の椅子に座る。 私の胸元には 32番の札がついている。 まだまだだろうなー。   「雪?」 そんな時、控え室の扉が ゆっくりと開く。 …大悟君だ。 きっと来るだろうな…と 思っていたから大丈夫。 言えるよ、言える。   「雪、そのドレス本当に……」 「大悟君、聞いて?」 珍しく私が真剣な表情を するもんだから、 彼はキョトンとして私を見る。 「どうした?緊張してるのか?」   「ねえ、大悟君?  突然こんな事を言うと  病院に行けって  言われるかもしれないけど…  私ね、今夜には  貴方のところにいられなくなる。」 「は?」 「私…私は…!  あの夜、去年のクリスマスに  大悟君が見上げた  空から降っていた雪の一つ…なんだ。  あの時、大悟君に  一目惚れしちゃったのかなぁ。  この一年間ずーっと、  貴方の傍に行きたいって願ってた。  人になりたいって…    その願いが叶って、  まるで用意されていた  かのようにして  貴方が目の前に現れて、  私をあの部屋へ  連れて行ってくれた。  あの部屋でいっぱい  笑って、喧嘩して。  この一週間はすごく長く感じたよ。  昨日まで…  私は雪である事を捨てて、  人の身体を貰って、  人である『雪』になる  決意をしていた。  人になると二度と雪には戻れない。  けど、雪に戻る事を決めたら  二度と人になれない…。  だから、決めてたの…  でもね、思い出したの。  大事な事。    たとえばこのまま私達が  一緒にいるとするじゃない。  貴方はおじさんになって、  おじいさんになる。  けど…けど私はこのままなの。  今のまま。  この地球という星が消えるまで  ずっとなんだって。  私…嫌だ…  大悟君がいなくなるのを見て…  いなくなった悲しみを背負って  何年生きるの?  どれくらい  耐えなくちゃいけない?  …だから……  私、私の勝手だけど…決めたの。」  
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