563人が本棚に入れています
本棚に追加
湯から上がり身体を拭くと、まるで皮を一枚はがれたような気がした。
真新しい下帯と着物を着せられ、部屋へ連れていかれた。
「マキリちゃん、俺の用人だから俺の部屋で寝ろよ」
他の用人達の顔色からして、それがあたりまえではないことがわかった。
「ははは、沖田先生、いたくお気に入りのようですなあ」
吉村貫一朗が笑いながら、俺の荷物を持ってついてきた。
なるほど、先生と呼べばいいのか。
また一つ覚えた。
そのことを問うと、役付きの幹部を先生、それ以外は殿で呼べば間違いないと、吉村貫一朗が物静かに言った。
沖田総司の部屋に落ち着き、また酒でもと言いかけた時に、下居の方がえらい騒ぎになって、二人の先生の後から俺もついて行った。
下居の土間には、全身に返り血を浴びた者達と、腕と足に手傷をおい戸板に乗せられた者がいた。
負傷者は浅手のようだったが、返り血の様子から相手はそうでないことがうかがえた。
「浅手だ、しっかりせんか!」
吉村貫一朗が怒鳴り、手際よく治療を始めた。
「新八ちゃん、ご苦労様でした。」
沖田総司が労ったのは永倉新八だった。
「四人、長州」
長州浪士を四人切り捨てた、という意味だろう。
言葉少なに言うと、外の井戸へ向かった。
「マキリちゃん、毎日がこんな塩梅だ。切ったり切られたり」
自分は絶対切られねえって顔で言いながら、酒の用意をしだした。
部屋に戻り酒の相手をしていたが、置いてきた自分の荷物が気になってきた。
気もそぞろにもぞもぞしてるうちに、吉村貫一朗が戻り、永倉新八も加わった。
「永倉君、これ今日から俺付きの用人になったマキリちゃん」
俺はもごもごと口の中で挨拶めいたことを言った。
「用人と差し向かいで酒か」
と永倉新八が言った。
「忍の系統、腕はたつよ」
「沖田先生が、あわや胴を取られるとこでした」
吉村貫一朗が言うと永倉新八は、ほうっと言いたげにこちらを見た。
また、飯が食いたくなった。
その旨言うと沖田総司と吉村貫一朗が大笑いしたので、ついでに荷物を取りに行ってよいか聞いてみた。
「戻ってこないと切らなきゃなんないからね」
と沖田総司が言うと
「切るほうも命懸けでござるなあ」
と吉村貫一朗が言い、なぜか永倉新八が笑った。
俺は行き、戻った。
そして今度は新選組に入った気がした。
また飯を食った。
最初のコメントを投稿しよう!