9人が本棚に入れています
本棚に追加
本気だと思えば語られる言葉全てが本気に聞こえるし、冗談だと思って聞けば、全部が冗談にも思えてくる。
「? どうした。疲れたなら休んでろ」
何処か投げやりにも聞こえたその言葉に、ラルフが表情を険しくさせた。その表情の変化に、まずったと思ったのが軍曹殿。
尤も、既に発した言葉は取り消しが効かないので、今更どうする事も出来ないが、この後対応をミスると、着任当初のラルフに戻る事も充分に考えられる。それだけは何としても避けたい。
で、実はこの”何としても”ってのがくせ者で、現場指揮官以上・以外の感情が思いっ切り割り込んでいて、それを否定し見ない振り・気付かない振りをするのが、もはや出来なくなっていた。
「それ、貰います」
「んっ? ああ。悪いな」
少し前、自分が軍曹の為にと運んで来たものを貰い、視線を落とす。そして、首を傾げて上官を見詰めた。
「軍曹の右目、本当は見えているでしょう」
「見えてないよ」
「嘘だ」
「どうして嘘だと思う。?」
ツッと伸ばされたラルフの左手指が、眼帯の上をそろりと撫でた、何度も何度も繰り返して…。
「軍曹の右目は、ちゃんと見えているんだ。だから、話をすり替える。いつもいつも…他の話にして誤魔化す」
独り言のような小さな呟き。
ぼんやりと空を漂っていたラルフの瞳が、自分の左手をしっかりと視界に捕らえた。そして、慌てて手を引っ込める。
「すっ・済みませんっ」
酷く狼狽し、謝ったと同時に勢い良く立ち上がったラルフ越しに、とても良く知った声が届いた。彼はコーヒー屋の出前持ち。
「ヘイ、お待ち」
まずは軍曹に。それから、困惑の表情を表しているラルフにもコーヒーを押し付けた。
「ん。お前の」
「あっ・・・。どっ・どうも・・・」
困惑の原因は、敢えて尋ねない。直接的には力になってやれないだろうから…。だから、気付かぬ振りをして軍曹に目を向けた。
「さっさと寝ちまって下さいよ、大将。目障りこの上ないんスけど」
「俺は”軍曹”だが」
「も、同じっス。緊急ミーティングやるんで、とっとと消えて下さい。あ、お前もな。時間になったら優しく叩き起こしてやるから、それまでの内に身体をしっかりと休めておけ」
最初のコメントを投稿しよう!