神様がくれた一日

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 叩き起こすのに優しいも乱暴もないと思うのだが、コーヒーの出前持ちはラルフが持って戻ろうとしたそいつを奪い取るようにして取り上げ、トットコその場を離れて行った。 「何のミーティングをやるんだか」  やれやれと言いたげに肩を竦め、有り有りと戸惑っているラルフを促し先に休む事にした。  まともに食べる事も出来ず、満足に眠る事も出来ていないらしいラルフを気遣っての見張り当番。軍曹はラルフの、唯一効き目のある精神安定剤だから、今暫くはセットという事になる。 「程々にしておけよ」 「イエッサー!」 「アイアイサー!」  空々しい敬礼を向けてくれて、廃墟と化した人家に入って行った。  確かにここで、誰かしらが生活していたろうに、戦争は平凡な家族を平気で引き離す…等と、感傷に浸っていては兵隊さんは勤まらないので…速やかなるデリート。しかし、この、速やかなるデリートもまだ出来ないラルフは、いつもの事と言ってしまえるものだったが、グレンに右手首を捕まれ一緒にそこに入って来ていた。 「さっさと寝るぞ」 「はっはいっ!」  辺りを伺い表情を暗く曇らせたラルフに、グレンのいつもながらの強い言葉が飛んだ。そして、それに返されるお返事の良さも、その後決まって顔を伏せてしまうのも、毎度お馴染みの光景。  苦しそうに唇を噛み、深く俯くラルフの顔を、グレンが無理矢理上げさせた。 「あ…の…」  真っ直ぐに見据えてくれる軍曹の左目が、いつもと違うように感じる。瞳に宿る確かさは同じなのに、何となく違う…ように思えた。 「俺の右目が見えているとして、じゃあ何が見えてると思うんだ?」 「それ…は・・・」  間近にするには強い眼光。ラルフが目玉を動かし、視線を切った。  じんわりと浮かんだ涙。悲しかった訳ではないが苦しかった。 「何が苦しい」 「?! やっぱり、見えているじゃないですかっ、俺の考えてる事」 「そうかな」 「そうですよっ! あ・・・」  零れ落ちそうになった涙が、ラルフの頬を濡らす事はなかった。  頬に感じていた柔らかさが唇を覆い、馴染みのない煙草臭い息が吹き込まれていた。大きく見開かれたラルフの瞼が静かに落ち、熱を伝えてくるそれに応じる。 (あったかい・・・)  きつく抱き締められて、とんでもなくつまらない事に気が付いた。
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