神様がくれた一日

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 手持ちが心細くなって撤退したのか、どう頑張っても突破も守る事も無理だと判断しての撤退なのか、それとも、別の作戦行動の為の撤退であるのか判らないが、新たな作戦行動の為の撤退であったなら、いずれ本隊の方から情報なり指示なりが届くだろう。  最前線と言うと聞こえは良いが、全体の中のほんの一部でしかないから、相手の動きの意味が全て判る訳ではない。その反対に、判らない事の方が多い。ま、それも、経験と勘で乗り切れるようになるもんだが、本隊の指示がないと身動きままならないのも事実。  それが、戦争ってもんだ。一人を殺せば殺人になるが、戦争では何百人殺しても罪には問われない。寧ろ、殺した人間の数が多い程ヒーロー扱いを受けられる。  てんでにバラバラな行動を取られたんじゃ、落とさずに済んだ命も落とす事になるし、勝ち戦を負け戦にする事だってある。更には、終戦を先延ばしにする事にも成り兼ねない。  尤も、最終的な判断は現場指揮官によるところが大きいが…。  アイコンタクト。  特に指示を出さなくても、こういう事に関しては皆、的確かつ迅速に動く。だからもう、目を付けた廃屋の内部点検と周辺の状況確認は済んでいた。 そこここで小さくガッツポーズを作る連中を目に、現場指揮官、グレン・スコットフィールド軍曹が苦笑いを作る。しかしまぁ、これも仕方ないかと、昨日までの強行軍を思い出した。  銃は弾がないと無意味に重いだけで役に立たないし、戦闘機も戦車も燃料[ガソリン]が切れたら動かない。それは、人間様も同じ。  忘れた頃にちょっとで充分だ。燃料[いきぬき]がないと満足に戦う事が出来なくなる。生きる為に生まれてきた命、わざわざ捨てる事はない。  生き延びる為に下さった神の一日を有効に使うのが、正しい人間様の在り方ってもんだろう。  見る間に宴会の準備が進んで行く。たって、たかが知れている。ここは殆どのものが壊された戦場なのだから…。  グレンが本隊の方へ一応の報告を終わらせたら、宴会の準備は勿論、見張りに立つシフトまでもが完了していた。だからグレンは、その報告を聞くだけで良かった。 (全く、こいつ等わ…)  手間が省けると言えば省けるので、ある意味において有り難い事ではあったが、それを素直に喜んで良いものかどうかは別問題だ。
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