神様がくれた一日

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 が、それを言葉や態度に示したりする人間でもなかった。  とんと聞かれなかった弾んだ声でしてくれるそいつを耳に、頬を指先でポリポリ。で、新しい煙草を一本。 「余り羽目を外すなよ」 「イエッサー」  こういう時には一段と歯切れ良く返って来るお返事。  やっぱり、苦笑いしか浮かばない。 「あれ。どちらへ行かれるんです?」 「軍曹?」 「愛しのハニーちゃんと愛を語らうんだ。邪魔しに来るなよ」 「どうぞごゆっくり」  白々しい言葉に続いたいくつかの笑い声。それを背中に受けながら、少し離れたところで加えていた煙草におもむろに火を点けた。  大切に吸っているこの煙草が、グレンの”愛しのハニー”ちゃん。普段はシケモクを加えチビチビ吸[や]っているが、正しい人間様で居たいから、ゆるされたこの時間の、彼なりの有効活用。  どっこいしょっ、と掛け声でも出そうな怠慢な動きで瓦礫に腰を下ろし、深々と一服。  このっ、肺を充満させる煙草[けむり]が堪えられない。  嗚呼。生きてて良かった。煙草が美味いぜ。  時折り聞こえる、戦場である事を忘れさせるような陽気な笑い声。  グレンの顔にも笑みが浮かぶ。  自分で言うのもなんだが、うちの分隊[パーティー]は纏まりも良いし仲も良い。  他の分隊[パーティー]の事を詳しく知っている訳ではないが、上官と部下という堅苦しい垣根はないし、先輩風を吹かせる馬鹿者も居ないし、けれど、けじめはちゃんと付けられる奴等だ。だから、一人の欠員もなく皆で国に帰る。それが、自分の第一の義務だと思っている。 「あの…。軍曹?」 「あ~?」  ハニーちゃんと世界を創って浸っていたら、背後から知っている弱い声が掛かった。  煙草を加え直して振り向くと、うちの分隊[パーティー]で一番若くて新入りでもあるラルフが、些か緊張気味に立っていた。  これがもし、他の連中[だれか]だったら表情に嫌悪感をわざと表わし怒鳴り返しているところだが、この子にはまだ、それがジョークとして通じない。だから、返事は無愛想だったが振り向いてやった。 「こ…れ」 「ああ。ありがとよ」  ラルフが言葉と共に差し出してくれた本日の宴会料理(?)を受け取りつつ、向こうに見え隠れする連中を見遣る。
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