神様がくれた一日

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 唯、それが何に起因するのか知った事ぢゃなかったし、グレンにはどうでも良い事だった。  ”生き残る・生きて国に帰る”との想いが強まるのなら、原因なんて更々関係ない。  臆病者、大いに結構。  臆病者は周到だ。死にたくないから常に回りに注意を払い、無理も決してしない。つまり、無駄死にをしないという事。  そして、信念は強く持つもので、又、持ち続けなくては意味がない。その出発点なんか、取るに価しない下らない事だ。  身の置き場に困っているラルフをチラリと見遣ったグレンが、手に取ったものを脇に置いた。それから、現時点での危険は殆どないというのに緊張を解けないでいる新人さんに声を掛ける。 「お前は食ったのか?」  戻るに戻れず佇んでいたラルフが、突然の軍曹の声にびっくり。それでも返事はした、大分しどろもどろだったが…。 「いえ…まだです。その…」  特別任務は既に完了している。もう、ここに居る必要はないし、ここに自分が残る為の何らかの口実もないし思い付かない。だから、台詞が途中で途切れ、唇を噛んで顔を伏せる事となった。 「さっさと自分の分は確保しておかないと、なくなっちまうぞ?」  見るからにどうしよう風に俯いた新兵を前に、軍曹殿、悟られないように顔を背けて小さな溜め息を一つ。  あいつ等の気遣いは、まだまだ当分は続くようである。  しかし、”皆で生きて帰る為”には必要な気遣いなので、どうこう文句を唱える奴は居ない、少なくともうちの分隊[パーティー]には…。 「さっさと取って来い?全部食われちまうぞ」 「あの・・・」 「ん~?」 「いえ…。何でもありません」  更に視線を下に向け、ヘコッと頭を下げて立ち去るラルフに、軍曹の言葉が更に続いた。 「次からは、自分の分も一緒に持って来ておけよ。一々戻るのも面倒だろう」 「え? あっ、はいっ」  言葉の意味が直ぐには理解出来なかったのだが、食事を一緒にして良いと言ってくれたと解るなり、あっちゃ向いて煙草を燻らす軍曹殿に深々と一礼した。そして、小走りに戻って行く。  そんなラルフを背中で感じながら、返されたお返事の良さと戻る足の速さに、グレンが腹の中でもう一つ深い溜め息。 「ま、仕方ないか」  誰に言うでもなく独りごち、深く煙草を吸い込む。
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