神様がくれた一日

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 一番困っているのも焦れているのも、外ならぬラルフ本人だ。彼はまだ、ココでの自分の居場所を見付けられないでいる。どんなに心細いだろうか。先輩達が当然としてくれる気遣いすらも、今のラルフには辛くて重いものの筈だ。  誰でもが通る道だが、決して平坦ではない。  その代わり、踏破したら、何物にも替えがたい戦友がこんな身近に居てくれたのかと、心丈夫になれる。それまでの辛抱だ。  自分の分の食事を取って戻って来たラルフが、ちょっと気後れしたように足を止めた。  馬鹿みたいにはしゃいで戻って来たが、言葉として 『一緒にどうぞ』と言われた訳ではなく、そう思ったら足が動かなくなった。  そんなラルフに、グレンの何処か惚けた声が届いた。 「? 何やってる?」  いつの間にか振り返り、自分をヂッと見詰めていた軍曹と視線を合わせる事が出来ず、顔を伏せてボソボソ。 「何…も…していません」 「変な奴だなぁ」  胡散臭そうに眉を潜め小さな声でそう続けたグレンが、さっさと座れと隣りを促してやった。  途端に、ラルフの表情が蘇る。  ちょっと緊張して、それでも嬉しそうに、促されたそこに収まった。で、お決まりの深い溜め息がその唇から零れ落ちる。  どうやら本人の自覚はないらしいのだが、ラルフは決まって、自分の隣りに来ると今のような深い溜め息を吐き、それからやっと、肩の力を抜いているようだった。  そんなに緊張していてどうする、とも思うが、誰もそれを言葉にして指摘しなかったし、又、責める事もない。  グレンの隣りで吐く溜め息についてはグレン独りしか知らない事だったが、ラルフ本人ですら意識の外の行為なのだが、一番焦れているのがラルフだと皆解っているから、それを急かそうとはしない。  何故なら、言われてどうにかなるような事ではなかった。  本人の努力すらも、大して意味をなさない。その反対に、邪魔になる事の方が多いくらいだ。現に、今のラルフがそう。彼は早く環境に慣れようと、見ているこっちの方が胃に痛みを覚えるほど頑張っている。が、その努力と焦りが逆に彼を追い詰め、今に至る。つまり、無駄な努力を日々積み重ねている、という事だ。  しかし、その努力を止めさせる事も出来ない。これは、時間しか解決してくれない心の病だ。
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