神様がくれた一日

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 個々それぞれ、時間の長短はあったが、皆、一度は掛かっている。現実を受け入れる事、自分の回りに居る連中の存在の大切さに気付く事。処方出来る薬があるとするなら、以上二点。飲み薬ぢゃないから困るが…。 「大分、食えるようになったな」 「えっ? あっ。お蔭様で」  プカプカと、美味そうに煙草を吹かしていた軍曹に、不意に声を掛けられた。それに照れて笑ったラルフが、手に持っているものに視線を落とす。  初めは、何も喉を通らなかった。ある程度のイメージはしたし覚悟も充分にして来た・つもりだったが、そんなもの、何の役にも立たなかった。多分きっと、軍曹[このひと]が居てくれなかったら、敵の放つ銃弾で命を落とす前に、拒食症で倒れていたろう。 「軍曹は食べないんですか?」 「食う。愛の語らいが終わったら」 「そうですか・・・」  きっぱりと返されたお言葉に、ラルフが引き攣ったような笑みを浮かべ、カクッと両肩を落とした。 「ハニーちゃん…ね・・・」 「んっ? やらねーぞっ」 「誰もくれとは言ってませんよ」  思いっ切り顔を向けられ、ついでに、警戒したように身体逃げ加減で即行返されたお言葉に、改めてガーックリ。しかし…。 「言ってもやらん」 「・・・。そうですか」  とっても力強いお返事で、更にうなだれた。らしいの言葉一つで片付けるには、ちょっと悲しいものがある。  ま、慣れたけど、この人のすっ惚けたお言葉には…。  ハニーちゃんとの語らいが人心地ついたらしい軍曹が、やっと食事を掻き込み始めた。宴会料理と言っても、いつもと何かが違う訳ではない。一品多いとか量が気持ち多いとかいう事もなく、至っていつも通りの兵隊さんの義務の一つ。  いわく、 『気分の問題』らしいが、そこら辺りがまだ良く解らないラルフだ。  耳に届く笑い声。  あの輪の中に入りたいと思うのだが、中々上手く行かない。いつになったらあの中に、居る事が出来るようになるのだろう…。  ふっと視線を落とし、意識もせずに零れた小さな溜め息。  それに気付かないグレンではない。  向こうは向こう。気にするなと声を掛ける。 「お前、恋人が居るんだよな」 「えっ? あ。はぁ」  ポッと頬を染め、ラルフが俯いた。 「良い女か」 「まっまぁ、そこそこに」
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