神様がくれた一日

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「そいつは結構。帰る楽しみがある。羨ましい話だ」 「軍そうにも恋人居るんでしょう?」  言葉にして尋ねた直後、鋭く胸が痛んだか、ヌーッと突き出された軍そうの手の中のものを見詰め、息を詰めて固まった。 「・・・。え?」 「ハニーちゃん」 「いや・・・そういうのではなく・・・」 「そうもああも関係ない。失礼な奴だな、お前」 「す・済みません」  気分悪そうな軍そうの声で思わず謝ってしまったが、微妙にずれていないか? 着任早々に教えて貰った事だが、恋人の有無を尋ねて潰れた箱を突き出すか? 普通。ま、この人は、些か普通から掛け離れているらしいから、何とも難しいところだが…。 「あの」 「何だ?」 「いえ。良いです・・・」  さっさと掻き込んでしまったグレンは、ラルフに”そういうの”呼ばわりされた愛しのハニーちゃんを一本、唇に加えていた。  その、余りにも幸せそうな表情で続く言葉を飲み込み、でっかい溜め息を一つ。この溜め息は、自覚した上でのものだ。 「全く。失礼な奴だ。俺のハニーちゃんのどこが不満だ」  ムッとしてラルフを睨み付け、加えていた煙草に火を点ける。 「別に…不満はありません」 「と、不満そうに言うな」 「いや。本当に。そのハニーちゃんではないハニーちゃんは居ないのかな~と思って」  又、胸が痛かった。どうしてだろう。今、少し離れたそこで笑いあっている先輩達とは、普通の会話の中に登場する、国に残して来た恋人や待っている家族、妻子の事じゃないか。写真を見せて貰った事だってあるし、とゆ~か、写真に関しては何度も見せられていたしからかってもくれている。さすがに、日常会話ではなかったが、特別な事でもなかった。だというのに…。 「ハニーちゃんは一人で充分だろう。う~む。ちと、心細くなってきたかな。大事にしないとなぁ」  一度はポケットに戻したハニーちゃん事へしゃげている煙草の箱を覗き込み、何本残っているのかを数えた。要求して直ぐに届く補給ではないから、ニコ中のグレンにとっては、ハニーちゃんが居なくなる(?)事は死活問題をも意味する。  そんなグレンを、言葉もなく眺めていたラルフが、再びしっかりとうなだれた。  この人の場合、何処までが本気で何処からが冗談なのか、線を引くのがとっても難しい。
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