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夏の風が私の座る窓側の席から入ってくる。
二人とも髪が風になびく。
ふと翠を見て私は言葉を失った。
「・・・・・。」
やさしいような
せつないような
翠の顔。
この顔の翠が私は一番嫌い。
だって雛を思い出している。
「もうすぐだな。」
翠がつぶやいた。
「・・そうだね」
相づちを打つことしか私にはできなかった。
やがてチャイムが鳴り
翠は自分の席に戻っていった。
私は授業中悲しさでいっぱいだった。
気の重たい授業が終わり
教室には私だけ。
問題集を広げて私は一人勉強をしていた。
疲れた・・・。
今日もまた翠、振っちゃうんだろうな。
翠は恋する気ないもんね。
翠が告白されるたび思い知る。
翠の人生で一番は雛。
雛がいなくなっても
翠はどこかで追いかけている。
いつも私は同じ人に失恋する。
いつも私は同じ子にかなわない。
一緒にいる時間は私のほうが絶対長いのに・・・。
ねぇ?私を見てはくれないの?
ガラガラ。
ドアが開き慌てて涙目を手でこする。
「橘?」
入ってきたのはクラスメイトの劉。
振り返って私は聞いた。
「どうしたの?こんな時間に」
「俺は弁当箱忘れたからとりにきた。橘こそめずらしいね・・・・一人なんて。」
劉は私の前のいすに私と向かい合うように座った。
「今日は一人だよ」
「翠は?」
突然のその言葉に
また思い出して泣きそうになった。
「????俺なんか悪いこと言った?」
劉は心配そうに私の涙目をみて
少し慌てている。
「なんでもない。」
できるだけ普通に声を振り絞り言った。
「そっか」
やさしい劉はそれ以上なにも聞かない・・・。
時間がゆっくり流れている気がした。
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