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雛の通夜は雨の日に行われた。
翠は動かなくなった雛を無言で見つめている。
私はそんな翠の隣にいた。
あまりに他とは違う私たちの様子に
雛の母が話しかけてきた。
「あの・・雛のクラスの子?」
おばさんの目は赤い。
泣きはらした目だ。
「・・・・・」
翠は視線を雛から離そうとはしない。
「はい。私が橘で彼が尼崎翠です。」
動こうとはしない翠の変わりに私が答える。
「・・・翠クン?・・もしかして・・・ちょっと待っててね。」
雛の母は控え室に
何か思いついたように小走りで戻っていった。
「翠。大丈夫?」
大丈夫なわけない。でもなにか言わずにはいられない。
「・・・」
案の定。
翠は答えない。
翠は黙って雛を見つめていた。
しばらくして雛の母が戻ってきた。
「これ・・・」
差し出されたのは一冊のノート。
翠はやっと視線を雛からノートに向ける。
「雛の気持ち知ってほしい・・・親の勝手であなたを苦しめるとしても・・・。」
雛の母は涙を落とし翠の手にノートをのせた。
翠は中をゆっくり開いた。
日記の始まりは翠を振った
あの日からになっている。
〆今日、翠に嘘をついた。そして翠を振った。
翠はすごく傷ついてた。あの顔が頭から離れない。
でも病気にかかりもうすぐ死ぬ私を見せたくない。
翠の思い出の私は『私』でありたいの。
翠。嘘ついてごめんね。
翠はページをゆっくりとめくっていく
そしてだんだん目に涙が溜まってきた。
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