第十二章 救援

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「何だ…だいぶ近くじゃない。あと一時間もしないで着陸よ?」 由真は再び席に着くと空に向かってそう言った。 「へぇ…由真って物知りなんだな…」 「あんたが知らなすぎるのよ。ヨーロッパくらい覚えておかないと後で困るんだから」 由真はそう言うと服の乱れを直した。 今まで寝ていたからか、髪にも変な癖がついていて、由真はそれを手で直しながら横目で空を見た。 空は前方のスクリーンを難しそうな顔をしながらじっと見つめていた。 「困るとは言っても…今覚える必要はないのよ…?」 「いや…そうじゃなくて、方向だけでも覚えられたら通行証を使うときに役立つんじゃないかと思ったんだけど…やっぱ無理みたいだ…」 空は数秒間スクリーンを眺めていたが、やがてそれが無駄だと分かると、また座席に座って背もたれに寄りかかってしまった。 「まったく…私が通行証持ってた方がずっと使い道が広がるんじゃないかしら?」 「う~ん…そうかもな…。今度時陰の使徒に会ったとき聞いてみようか?」 「是非そうしましょう?」 由真は嫌みっぽくそう言ったが、空は本気だった。 しかし、お互いがお互いの考えていることを理解しないままにこの話題は終わりを迎えてしまった。
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