3人が本棚に入れています
本棚に追加
いつもひとりぼっちの仔犬がいました。
仔犬は気がついた時からずっとひとりぼっちでした。
他の仔犬には母親やたくさんの兄弟がいるのに、どうして自分には誰もいないのだろう。
もしかしたら、母親や兄弟たちは何処か違う場所で、仔犬が来るのを待っているのかもしれない……。
そう思い、仔犬は旅に出ることにしました。
行けども行けども、仔犬の家族は見つかりません。
ふわふわで白かった毛並みは、今では埃で薄汚れてしまい、尻尾はだらりと下がったままです。
疲れた仔犬はふと、今気付いたように空を見上げました。
空には大きな夕陽が傾こうとしていました。
あんなに高い所にいるお日様なら、ぼくの家族を知っているに違いない。
仔犬は立ち上がり、空に向かって呼び掛けた。
「あの、お日様。ぼくの家族をしりませんか」
夕陽は仔犬が動くと遠ざかり、仔犬はまた夕陽を追うのでした。
「待って下さい。どうかぼくの話を聞いて」
仔犬は精一杯走りながら、夕陽に呼び掛けます。
けれどもその真剣な思いを知ってか、夕陽はどんどん山陰へと姿を隠そうとしています。
仔犬は爪先から血がにじんでいることすら気付かずに、ただ夢中で夕陽を追いかけました。
「待ってお願い、行かないで」
仔犬の呼び掛けも虚しく、夕陽はすっかりと姿を隠し、辺りにはひっそりとした闇が佇んでいました。
その時になって、ようやく仔犬は足を止めたのです。
身体を弾ませて、苦しそうに息を吐いて、仔犬は泣きました。
心が震え、身体が裂けそうな声で泣きました。
やがて泣き疲れて眠った仔犬の頭上に数多の星が輝きました。
夕陽を追い掛けていた仔犬のようすを、薄闇から覗いていた月は、眠った静かに囁きました。
どうか、この仔犬の悲しみを拭い去り、喜びを与えたまえ。
月はそう囁くと、仔犬に柔らかな銀色の光を注ぎ、その眠りを見守り続けました。
最初のコメントを投稿しよう!