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吐く息すべてが白に色を変えて行く。
裕は親と喧嘩して、昨日で底を尽きた通学費用をもらえず徒歩での通学を余儀なくされてしまった。
「さむ…」
首にしっかりとまいたマフラーもそんなに意味を成していない。
約3メートル前の信号が変わろうとする。
裕が小走りでそこを渡ろうと走り始めた時だった。
「裕!!」
自分の名前を呼ぶ声。裕は止まって振り返った。
「朝、一緒に行こうって言っじゃん」
そう言われても、裕はその子のことを知らない。
「えっと、誰ちゃん?」
「ヒドい!!昨日…」
「昨日?」
裕は記憶を巡らせる。
思い出せない。
「あ、」
「思い出した?」
その子はニコッと笑う。
「俺、可愛い子しか覚えられないんだ。だから俺に覚えてもらいたかったら可愛くなって」
「な、最低!!」
その子は泣きそうな顔をして、走って去って行く。
「朝から元気だねぇ」
裕は変わった信号を渡って学校に向かった。
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