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アリスは英志の制服のブレザーとズボンの右ポケットに、何かを入れてきた。
ズボンには縦10㎝以上ある筒状の細い物体が、ブレザーにはポケットが破れそうな程ぎりぎりに押し込められた太い箱が、それぞれ入れられた。
しかも、ブレザーに詰め込まれた箱らしき物の角は4つだけではないらしい。
「そのままエレベーターで出口に向かって」
不審な物体を入れられたまま英志は命令を受け入れた。恐らく、エレベーターに乗るのは人目を避ける為だろう。
アリスはエレベーターの奥が鏡である事を知っていたらしく、英志ごと扉に背を向けさせ、英志の腕を引きながらそっと後退した。
鏡など忘れていた英志は目的の方向と反対に向けられ、いきなりどうしたのかと驚いていたが、すぐに見当は付く。
感心したものだ。
どうやら、アリスはなかなか賢い様だった。
エレベーターに乗る時、流れる空気と共にアリスの香りが英志の鼻をくすぐった。
一言ではとても言い表せない、穏やかで柔らかな香り。
思わず眠くなりそうな、身に馴染む懐かしさ。
その甘く可愛げな香りを英志はいつまでも忘れない気がした。
いや、ずっと前から知っていた。
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