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アリスとのほんの数分間。
今もなお、何をされるか全く予測の着かない不安は続く。
彼女を、恐れなかった訳ではない。
あれだけ魅せられた美声が発す威嚇の色は、英志を屈するには十分だった。
しかしそれ位なら、英志にとって苦痛になるはずがなかった。
心から出合う事を望んだのだから。
悔やむはずなどない。
例えどんな状況であったとしても、それは変らない。英志はいくらでも耐えるだろう。
求めても起こり得ない。
手に入らないはずの、願いだからこそ。
1階に着くと、到着を知らせる間の抜けたアナウンスが再生され、余計な音を立てながら重厚な扉は開いた。
エレベーターと出口は正反対の位置にあった。
だが、扉側を向いていた英志には、扉が開いた瞬間に出口が見えてしまった為、突き当たりにあるはずの出口が目前に思えたのだった。
同時に、アリスとの運命すらも。
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