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英志はずっと立ち止まっていたい気分だったが、以前と変らない単調な歩調で歩いた。
アリスはせかす訳でも、ましてや焦る訳でもない。常に何処か余裕を漂わせ、英志を優越していた。
だが、それも間もなく終わろうとしている。
何があったと言う訳ではない。むしろ、何もなかったに等しい。
出合って、それで、終わる。
2人の間にはびこる緊迫感は絶えず存在し続けたが、果たしてこの後――英志にはどんなささいな出来事すら予想出来ない。
英志は徐々に出口に近付きながらもどうすべきか考えたが、まるで真新しいスケッチブックの1ページの様に頭の中が真っ白になったままだった。
結局、ほとんど何も思い浮かばないまま時間と距離だけが縮む。
――そして、冷たく透き通る風。
とうとう英志とアリスは、ビルの外へ踏み出したのだった。
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