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空気は少し肌寒く、日は落ちたばかりの様だった。
太陽の光だけが名残惜しく残り、少しの不安と不気味さを放っている。
赤い空はお世辞にも2人を祝福してるとは言い難かったが、英志には澄み切った穏やかな空よりも、この狂気に満ちる紅の空こそ、アリスとの出合いにふさわしいと感じたのだった。
アリスは英志のズボンのポケットから謎の筒を取り出し、背後から視界へと軽やかに躍り出た。
優雅に舞う金の髪。
アリスが回ると、短いスカートや広がった長い袖が、ちりばめられたレースと共にふわりと揺れる。
漆黒のヴェルヴェット生地に純白の十字架。細部に至るまで細やかに装飾された、高級感漂う厚手のコート。
まだ幼いあどけなさが残り、まるで――…
その姿は漆黒の天使だった。
悪魔
と、表現した方がイメージとしては正しいのだろう。
しかし、その無邪気な笑顔はすさんだ世界をなぎ払う為に存在し、生きる者をあざ笑うには十分過ぎた。
つまり
高貴なる可憐。
いたわる様な優しさ。
それこそが、下種を従わせる特権的な身分の姿、有様。
天使たりえる証拠と等しいのだった。
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