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呆然とその威力を見て、トウヤはポツリと呟いた。
「無理。どう考えても無理。戦うなんて無理。」
アッサリ覚悟を捨てて、再度逃げようとしたが、甘かった。
丸一日走り続けた体は、すでに限界をこえていて、一度動きを止めた足は、言うことをきかない。膝が笑っている。
これでは、いくら逃げても直ぐに捕まる。
さぁ、どうする?
これで最後か?
ここで、トウヤはいちかばちかの賭けに出た。
「ドラゴン!!
話を聞いてくれ!!
俺は、お前に何もしない!!」
ジジイの昔話にすがったと言うよりは、もうヤケクソだ。
どんな馬鹿が、ドラゴンに話しかけるだろうか。
だが、トウヤにはもうそうする以外は思い付かなかった。
どんどん足音が大きくなる。
ひょっとして、このまま踏み潰されるんじゃないかと思ったが、足音だけではなく、振動まできている今となってはもう遅い。
ドラゴンの輪郭も見えてきた。
「ドラゴン!
止まってくれ!
話がしたいんだ!」
トウヤはもう一度叫んだ。
すると、本当にドラゴンが立ち止まった。
〔話がしたいの?〕
いきなり、トウヤの頭の中で声が響いた。
女の子の声だ。
しかも、かなり可愛い声だ。
「ヘッ?」
突然のことにトウヤが戸惑っていると、さらに頭の中で声がした。
〔だから、話がしたいの?って聞いたのよ〕
「ドラゴン?」
〔何よ?
言いたいことがあるならさっさと言いなさいよ。〕
間違いない。
この声は、ドラゴンの声だ。
「え?
えええええ~~~~!
おま…メスのドラゴンなのか!」
〔メス!
メスとは何よ!
女の子に向かって失礼ね!〕
どうやら、かなり話せるドラゴンらしい。
とにかく、まだ生き残るチャンスはあるらしい。
トウヤは、生まれて初めてジジイに感謝した。
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