忘れ傘

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良かったら連絡先、教えて下さいませんか? 私はそんな顔をしてたのかもしれない。 でも、口には出せなかった。なにも、言えなかった。 「大丈夫だよ。僕ら、またいつか会える」 彼が優しい笑顔で私に言ってくれた。 『あの笑顔、私を虜にしちゃった、あなたの笑顔は、私、いつまでも忘れないよ。 忘れちゃ、だめだからね、花乃』 どこからか、誰かもわからない声が聞こえた気がした。 なんだったんだろう。 私はペコッとお辞儀をして、彼も丁寧に頭を下げてくれた。私たちにはこれ以上なにもいらなかった。 彼は美咲ちゃんへの絵本を片手に、すっかり雨の上がった夜へ、帰って行った。 私はこの後、母さんに噛みつかんとばかりに怒られることになる。 その理由は私でも納得してしまう程だった。 なぜならそのお腹を空かせた母親は、雨が上がっても本屋からなかなか出てこない娘を、一時間もの間待ち続けていたのだから。
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