それは突然に

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    西暦2035年  康夫は車を走らせた。本社に出る必要はなく、取引先を回ればよい。今月はあと4件契約がノルマだった。 きつくてやめて行った同僚は少なくなかったがやりがいを感じていた。  いつもの慣れた国道は嵐の後で青々とした葉が散乱していた。  ふと、婚約者の景子のことが頭に浮かんだ。これから式までは準備が忙しく休日は予定が詰まっていた。  ふいに目の前に黒い霧のようなものが現れた。視界を遮った。車の速度を落とした。 (なんだ、あれは?)  形を徐々に変えながら車のわずか10メートルほど前を浮遊している。  康夫は凝視した。形がみるみるうちに変化した。 (まるでヒトのような・・・)  そう、それは紛れもないヒトのカタチ、ヒトガタであった。  康夫は混乱した。よく見るとそれはヒトなどではなくこの世のものではない異形であった。  黒いヒトガタは一瞬のうちに消え去った。まるで瞬きをした瞬間になくなってしまったかのように。 (あれは・・・何だったんだろう?)  気を取り直して運転に集中した。
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