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タラップを一歩踏み降りた瞬間の生ぬるい風に辟易したのは覚えている。
同じ九月とはいえ、釧路と台北の気候の差は歴然としている。ましてや長袖の軍服ではなおのことだ。
それでも、空軍の飛行場から出た時には、幾分暑さにも慣れた。
飛行場の正面ゲート前のロータリーに車の影はない。
「確か、迎えが来るんだよな……」
ちょうどその言葉を待っていたように、一台の小型車がロータリーに滑り込んできた。今時珍しい旧型の軍用車だ。
ちょうど護の前で止まった車の運転席から、小さな女性が飛び出してきた。
「す、すいません!遅れました!」
ちょっとよろけると、護に向かって敬礼。無意識につられて敬礼を返す。
「城沢伍長をお迎えにあがるよう言われておりますっ!天城 唯(アマギ ユイ)伍長ですっ!」
大きな黒目と、肩で綺麗に切り揃えた黒髪。本人の慌て具合とは裏腹に、数本のハネた髪が我関せずといった面持ちで、ぬるい風にそよいでいる。
随分と……小柄だった。護も背は高いほうではなく、せいぜい165cmほど。しかし唯は、その護の胸より少し上のあたりまでしか身長がなかった。当然、あまり女性的とは言いがたい平べったい体型である。高温地域仕様の半袖の軍服も、おそらく最小サイズ、あるいは特注品かも知れない。
「……ちっちゃい……」
「んなっ!?ちっちゃいって言わないで下さい!これでも、毎日風呂上がりに牛乳まるごと瓶一本を仰角45゚で飲み干してるんですっ!」
かなり力の入った自己弁護である。
「あー……すいません、天城伍長」
「あっ、そうでした!城沢伍長、乗ってください」
最低限の荷物だけ入れたボストンバックを後部座席に放り込むと、唯の隣の助手席に座る。
「しゅっぱーつ♪」
軽快な唯のかけ声と共に、車は急発進でロータリーを後にした。
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