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建物の中に入ると、控えめな空調が、全身にこもった熱を穏やかに取り去っていった。
「こっちですよ」
唯が先頭に立ってずんずんと進んでゆく。
玄関ホールのリノリウムの床が、蛍光灯を鈍く反射している。ホールからは正面と左右に長い廊下と階段が左右にある。
唯は右の階段を登ってゆく。護も後を追う。
受付のブースは空っぽ。ホールの少し奥まったところにエレベーターが一基あるが、稼働しているようには見えない。
護の疑念を察したのか、唯が口を開く。
「人気がないでしょ。実はここ、まだ本格的には活動してないんです。わたしは事務関係の雑務担当だけど、他には本当に最低限の基幹メンバーしか着任してないんです」
「天城伍長は、聞いていますか?」
「え?」
「その……この部隊の名前の、強化猟兵隊ってのを」
唯はちょっと残念そうに目をふせると、答えた。
「すいません……わたしもそういうの聞かされてないんです」
「そう……ですか、すいません」
「いえいえ――っていうか!お互い謝るところじゃないですよね!あははっ!」
天真爛漫というのは、彼女のような人物を指すのだろうと護は思った。
「さっ!司令室に着きましたよ」
視線を横にずらすと、そこには司令室の札の取り付けられた、アルミ合板製の簡素なドア。
深呼吸――ノック。
「天城です、城沢伍長をお連れしました」
「おう、入ってくれ」
扉の向こうからは、やや緊張感を欠いた中年男性の声。
「失礼します」
唯が司令室に踏み込み、護も続いた。
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