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足を踏み入れた先の部屋は、扉と同じように簡素で殺風景な部屋だった。
南側の壁にはブラインド付き――今は上にあげられている――の大きなガラス窓。
その手前には、よくオフィスで使われるありきたりな椅子と大型の執務机、と言っても、やはりアルミ合板製の簡素な物。
上には卓上スタンドの他には、いくばくかの書類の束のみ。
護から見て左手の壁際には同じく簡素な戸棚が据え付けられ、本やファイルがしまわれているが、隙間の方が全体的には多い。
全体を見回すと、それら以外には戸棚の脇にパイプ椅子が一脚畳まれて壁に立てかけてあるだけ。
そして、部屋には二人の人物がいた。
一人は執務机の椅子に。もう一人は右手の壁に寄りかかって。
雰囲気からして、直前まで会話をしていたのだろう。
すると、椅子に腰かけた方が口を開いた。
「ご苦労、天城伍長。もうさがって構わないぞ」
「はい!失礼しました」
唯が出ていくのを背中で感じながら、護は目の前の男に釘付けだった。
190cmはあろうかという褐色の巨体、黒々とした髪は後ろでざっくばらんに束ねられ、髪と同色の両目は、精力的な光をたたえている。
だが、なんといっても護の関心を奪ったのは、半袖の軍服と黒い革手袋の間からのぞく、精巧な義手の左手だった。
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