~第壱幕~

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「………のは…」 木刀を握り締めたまま修は、ふと何か聞こえたような気がした。 「だ、だれ!?」 そう叫んでみても何も返ってこず、今までに感じた事のない恐怖により手元を震わせる。 度々聞こえてくる不気味な声に対し、 「…うの……のは……」 修は直感で思った。 『この声…人の声じゃない…』 根拠はないが、何故かそう思った。 そんな時、突然修の背後から何かが飛び掛かって来た。 修は持ち前の勘と反射神経でそれに木刀で一太刀浴びせると、それは軽く吹き飛び、少し離れた所で横たわる。 「…えっ?…人!?」 それは、見た目は人間と何等変わらない普通の男のようだった。 しかしよく見ると、耳の先が鋭く尖っているのが分かり、異様な雰囲気を醸し出しているようだった。 その男はまるで何事もなかったように立ち上がると、吐息にも似た小さな声で囁くように口を開いた。 「…きょうの…えものだ…」 すると、その男の爪はまるで鋭利な刃物のようにゆっくりと伸び、まるで刀のように姿を変える。 そして男はその爪を勢いよく振り翳し、素早く修に向かって踏み込みながら斬り掛かる。 それに対し修は咄嗟に木刀で応戦するが、手に持った木刀では些か不安が募り、鋭利で長い刀のような爪を振るう男が相手では勝機を見い出すのは難しく思えた。 「…獲物って言った?もしかして私!?」 そんな中修は、今頃になって漸く"獲物"という言葉の意味と、自身の危機を悟った。 そして遂に木刀は弾き飛ばされ、修は不意に歯を食いしばりながらフッと目を閉じる。 その数秒後、風を切るような物音が聞こえたものの自身には何事も無く、不思議に思った修は恐る恐るゆっくりと目を開いてみた。
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