~第壱幕~

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幻妖の屍はこの世に残らない。 死して魂が肉体から抜けると同時に、蒸発したかのように消えていくのがその理由だった。 修は、目の前で起こった死合の衝撃よりも、激しく打たれる心臓の高鳴りを感じていた。 それは恐怖からのものではないという事は、自身でもすぐに理解していた。 ゆっくりと刀を鞘に納め、すぐに立ち去ろうとする少年に対し修は、 「…あ…あの!」 「…あ?」 「あの…」 「今見た事は他言無用だ。幻妖は自分達の存在を知る者を嫌い、真っ先に喰らいに来る。周りに言い振らしてその存在を公にすれば命に関わる…」 「…………はい」 何も言えなかった。 立ち去ろうとする少年に修は焦り、漸く絞り出た言葉で、 「あの、な、名前は…?」 辛うじて名を尋ねる事だけは出来た。 それに対し少年は足を止めてゆっくり振り返り、何故か少し哀しそうな表情を浮かべながら答えた。 「……翔次……」 そう言うと、すぐにまた前を向き直して立ち去って行ってしまった。 "翔次"と名乗ったその少年は、終始ずっと寡黙で無表情だったのだが、この時だけは哀しそうな顔をしていたと、何故か修はふとそう思った。 そんな翔次を引き止める言葉が見つからず、修はただただ後ろ姿を見送る事しか出来なかった。 「…恋…かな?」 二人はここで偶然出会い、それから修は切に願った。 「あの人に…また会いたい」 、とー。
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